ユリイカのブログ

ユリイカ進学教室の日々の一コマ、塾長のつぶやき

おすすめ本 1冊目 『舟を編む』三浦しをん

読んだ本の中から、おすすめの本を紹介していきたいと思います。

今回は、最近本屋で何の気なしに手に取り、一気に読んでおもしろかった本です。三浦しをんさんの『舟を編む』。2012年に本屋大賞を受賞し、その後映画やアニメにもなっているのでご存じの方も多いかもしれません

光文社文庫 682円

この本の主役は『大渡海』。とある出版社が社運をかけて出版しようとしている大冊の国語辞典です。その編集主任に任命されたのが、馬締(まじめ)光二。その名に違わず、マジメ一徹、異常とも言える言葉への執着、学者もたじろぐ膨大な知識を持つ編集者員です。髪はいつもボサボサ、ヨレヨレの服を着、書類の山に埋もれ、会話の途中であっても自分の興味を引く言葉に出会えば、ところかまわず辞書編集カード作りに没頭、他人になんと見られるかなんて全く気にしていない「変人」です。

 

このマジメ君がなんと編集主任に抜擢され、社運をかけている割には旧社屋の古ぼけた部屋で、人材不足に喘ぎながら、十数年の歳月をかけて大仕事を成し遂げていく姿が描かれます。まるで興味のない部署に配属された、何か頼りの無い編集部員たちが、マジメ君のペースに巻き込まれ困惑しつつも、徐々に辞典作りに情熱を傾けていく様がおかしくも感動的に描かれます。マジメ君はじめ主要登場人物の恋の行方も同時進行で描かれ、その過程でそれぞれが自分なりの辞書編集への「愛」も感じていくことになります。

そしてこの作品を独自なものにしているのが、気の遠くなるような辞典編集作業の描写です。出版の決定過程、原稿依頼、原稿催促、原稿の推敲、通常の数倍に及ぶ校正、紙の決定などが生き生きと描かれます。筆者は岩波書店小学館の辞書編集部に取材したそうです。

また要所要所に、言葉一つ一つの定義づけについての描写が埋め込まれ、これがいいスパイスになっています。例えば、「右」をどう説明する?「愛」は? 「料理人」はどうだろう?  定義を考えてみると、私たちが何気なく使っている言葉の自分にとっての本当の意味が見えてくるのかもしれません。そういうことを気づかせてくれるのもこの本のいいところです。

(答えは本書の中で。あるいは手持ちの辞書には彼ら辞書編集者たちの想いの詰まった定義が載っているはず。)